【弁護士に聞く!】婚姻費用って何? Q&Aでスッキリ解決!

「別居したけど、生活費ってどうなるの?」
「ウチはいくら払う(もらえる)のが普通?」
「まさか『愛は冷めたが金は払え』ってこと…?」
そんなモヤモヤを抱えるAさんが、数々の修羅場(?)を見てきたO弁護士に「婚姻費用」のリアルなところを聞いてみました。

弁護士大倉りえ
この記事を監修した弁護士

弁護士 大倉りえ

大阪事務所所長。
10年以上の経験を活かし、話しやすい雰囲気で丁寧にお話を伺い、納得の解決へ導きます。

登場人物
  • Aさん Aさん:
    お金のことはシビアに知りたい。法律用語は苦手。
  • 弁護士 O弁護士:
    離婚問題に詳しい弁護士。分かりにくい制度を、バッサリ解説する。

Q1.そもそも「婚姻費用」って、何の費用です?

Aさん

O先生、こんにちは。「婚姻費用」って、早い話が「別居中の生活費」ってことですよね? でも、もう一緒に住んでないのに、払ったりもらったりする義務ってあるんですか?

弁護士

Aさん、こんにちは。良いところに切り込みますね。おっしゃる通り、婚姻費用は「別居中の生活費」という理解でOKです。

Aさん

でも、もう別居してるのに…?

弁護士

そこが法律の厳しいところです。たとえ別居していても、離婚届を出していない限り、法律上は夫婦です。

Aさん

うーん、形だけ夫婦、みたいな…。

弁護士

そして夫婦である以上、「生活保持義務」という強力な義務で結ばれています。

Aさん

セイカツホジギム…?

弁護士

簡単に言うと、「自分と同じレベルの生活を相手にもさせる義務」です。「私は高級ステーキ食べますけど、あなたはパンの耳で」は法的に許されない、ということです。私はパンの耳も好きですけど。

Aさん

すごい義務ですね!

弁護士

ええ。ですから、収入の多い方が少ない方に対して、生活費を渡す。これは、愛情とは別問題の「法律上のルール」なんです。ちなみに、私たち弁護士や裁判所は、これを「コンピ」と略して呼ぶことも多いです。

Q2. 何が「婚姻費用」に含まれるんですか?

Aさん

その「生活費」って、どこまで含まれるんですか? まさか、エステ代とか飲み代も?

弁護士

そこまでは流石に。婚姻費用は、あくまで「家族がその収入や社会的地位に応じた『標準的な』生活を送るための費用」です。

  • 衣食住の費用: 家賃、食費、水道光熱費など。
  • 子どもの費用: お子さんがいる場合、学費、被服費、医療費など(養育費に相当するもの)も、全部コミコミです。
  • その他: 医療費、交通費、妥当な範囲の交際費など。

Aさん

「妥当な範囲」ってのがクセモノですね。

弁護士

そうですね。夫婦の収入がどちらも高ければ、それなりの交際費も認められるでしょうし、家計が苦しければ切り詰めるべき、となります。常識の範囲内、ということですね。

Q3.「婚姻費用」と「養育費」って、何が違うんですか?

Aさん

あれ? ちょっと待ってください。婚姻費用って、よく聞く「養育費」とは違うんですか?

弁護士

とても良い質問ですね。その2つは、請求できる時期と、お金をもらう対象者が決定的に違います。

婚姻費用 養育費
時期 離婚するまで 離婚
対象 配偶者+子ども 子ども
Aさん

なるほど! 「婚姻費用」には、まだ夫婦だから「配偶者の分の生活費」も含まれるんですね。

弁護士

その通りです。だから一般的に、婚姻費用の方が養育費よりも金額は高くなる傾向があります。

Q4. で、結局「いくら」なんですか? どう決めるの?

Aさん

一番知りたいの、ソコです! 「相場」ってどう決まるんですか?

弁護士

まずは、夫婦の話し合い(協議)です。「うちは月々これくらいで…」と平和的に決まるなら、それが一番です。

Aさん

もし、片方が「高すぎる!」、もう片方が「安すぎる!」ってケンカになったら?

弁護士

お約束のパターンですね。その場合は、家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てます。

Aさん

そこで決まらなかったら?

弁護士

最終的には裁判官が「審判」で決めます。その時、裁判官が電卓を叩いてイチから計算するかというと、そうではなくて…ジャン!「婚姻費用算定表」という早見表があるんです。

Aさん

早見表!

弁護士

はい。お互いの年収(額面)と、子どもの人数・年齢をこの表に当てはめると、「この夫婦なら、大体このくらいだよね」という標準額がパッと分かるスグレモノです。ネットでも見られますよ。
「婚姻費用の算定表」
(※裁判所HPが開きます)

Q5. 【実践】算定表ってどうやって使うの?

Aさん

うちの場合でシミュレーションできますか? 例えば…

  • 夫:自営業、年収600万円
  • 妻(A):パート、年収120万円
  • 子ども:長女15歳、長男12歳
  • 状況:今、私と子ども2人で別居中です。

弁護士

分かりました。一緒に見てみましょう。

  1. 適切な表を選ぶ:お子さんは2人(15歳と12歳)なので、算定表の中から「(表14)婚姻費用・子2人表(第1子15歳以上、第2子0~14歳)」を選びます。
  2. 夫(義務者)の年収:表の縦軸(支払う側)で「自営600万円」に一番近い行を探します。
  3. 妻(権利者)の年収:表の横軸(受け取る側)で「給与120万円」に一番近い列を探します。
  4. 交差する箇所を見る:その行と列が交差するマスを見ます。

Aさん

あ、ありました!「16~18万円」という欄ですね。

弁護士

その通りです。Aさんのケースだと、婚姻費用の目安は、月額16~18万円ということになります。

Q6. 算定表の金額がすべてじゃない?

Aさん

じゃあ、うちは16~18万円で決まりですね!

弁護士

ちょっと待ってください。算定表はあくまで「標準的な家庭」の目安です。ご家庭ごとの特別な事情によっては、金額を調整する必要があります。

Aさん

特別な事情?

弁護士

はい。例えば、以下のようなケースです。

  • 住居関連費:支払う側が、受け取る側が住んでいる家の住宅ローンや家賃を別に支払っている場合。
  • 高額な教育費:お子さんが私立学校に通っていて、算定表が想定する公立学校の学費を大きく超える費用がかかっている場合。

Aさん

まさに、夫が家のローンを払っています!

弁護士

算定表は「受け取る側が家賃を払う」前提で作られています。もし支払う側がローンも払っているなら、それは「婚姻費用の一部を支払っている」ようなものですよね。ですから、算定表の金額から、そのローン支払い額の一部を差し引いて調整する(=支払う婚姻費用額を減らす)のが公平ですね。

Q7. 請求しないともらえないってホントですか?

Aさん

「別居したら、すぐに請求しないと損するよ」って聞いたんですが、本当ですか?

弁護士

超重要ポイントです!「権利の上に眠る者は保護せず」。請求しないともらえません。

Aさん

ええー!? 「言わなくても察してよ」は通用しないんですか?

弁護士

通用しません。裁判所は察するのが苦手です。原則として、「請求の意思を明確に相手に伝えた時」からしか、支払い義務は発生しません。3年前に別居していても、請求したのが今月なら、今月分からしかもらえないのが基本です。

Aさん

恐ろしい…。どうやって「請求」すればいいんですか?

弁護士

一番カタイのは、「内容証明郵便」で請求書を送ることですね。「いつ、何を請求したか」が公的に証明されます。もちろん、調停を申し立てた日でもOKです。

Q8. この支払い、いつまで続くんですか…(遠い目)

Aさん

支払う側にしてみれば、「いつまで続くんだ」と。受け取る側も「いつまで大丈夫か」と。ゴールはどこですか?

弁護士

ゴールは明確です。原則として、「離婚が成立するまで(または、再び同居するまで)」です。

Aさん

離婚したら、ピタッと?

弁護士

はい。「婚姻費用」としては終了です。ただ、お子さんがいれば、そこからバトンタッチして「養育費」がスタートします。財産があるなら「財産分与」もあります。まぁ、終わりは始まり、ですね…。

Q9. もし「払わなかったら」? もし「リストラされたら」?

Aさん

決めたのに払ってくれない相手には? 逆に、支払う側が失業しちゃったら?

弁護士

どちらも「あるある」ですね。

  1. 払ってくれない場合(受け取る側)
  2. 調停や公正証書で決めたのに払わなければ、「強制執行(差し押さえ)」です。伝家の宝刀ですね。相手の給与を差し押さえるのが一番強力です。

  3. 払えなくなった場合(支払う側)
  4. ここ、注意です。リストラされたからといって、勝手に支払いをストップしたらダメです。それは「未払い」として借金のように蓄積されます。 必ず、家庭裁判所に「婚姻費用減額調停」を申し立てて、「すみません、事情が変わったので減額してください」と正式に許可をもらう必要があります。

Q10. よくあるギモン

Aさん

あの、他にも細かいギモンがあるんですが…

弁護士

どうぞどうぞ。

Aさん

別居してなくても請求できますか? 実は別居前から生活費をあまりくれなくて…。

弁護士

可能です。同居中であっても、夫婦には扶養義務がありますから、生活費が渡されない場合などは請求できます。

Aさん

(小声で)もし…不倫とか、自分が原因で家を出た側でも、請求できますか?

弁護士

うーん、そこはビミョーなラインですね。まず、お子さんの分の費用(養育費相当分)は、原因がどうあれ請求できます。お子さんは悪くないですから。ただ、原因を作った本人の生活費分は、「どの口が言うか!」と裁判所に判断され、減額やゼロになる可能性はあります。

Aさん

逆に、相手が勝手に出て行っても、支払わないといけないんですか?

弁護士

原則として、支払う必要があります。相手が一方的に出ていったとしても、それだけで扶養義務はなくなりません。

最後に

Aさん

いやー、よく分かりました! 算定表というモノサシがあるのは安心ですが、ウチの場合「住宅ローン」とか「相手が自営業で収入がハッキリしない」とか、色々ややこしい事情があって…。算定表どおりになるのか、すごく不安です。

弁護士

おっしゃる通り、算定表はあくまで「標準的なケース」の目安です。Aさんのように個別の事情(住宅ローン、私立の学費、高額な医療費など)がある場合、その調整こそが弁護士の腕の見せ所なんです。

Aさん

なるほど…。自分で計算したり、交渉したりするのはハードルが高いですね。

弁護士

はい。支払う側も受け取る側も、ご自身の状況で「法的に適正な金額はいくらか」「どう交渉すべきか」を知っておかないと、気づかないうちに損をしてしまう可能性があります。 特に別居直後は、感情的になって話がこじれやすいですから。

婚姻費用のお悩み、一人で抱えていませんか?

別居中の生活費は、離婚問題の第一歩であり、緊急性の高い問題です。

  • 「相手が話し合いに応じてくれない」
  • 「提示された金額が妥当かわからない」
  • 「自分のケースだと、いくら請求できる(支払う)べき?」
  • 「早くお金を確保しないと生活が苦しい」
当事務所では、婚姻費用に関するご相談を(男性側・女性側問わず)積極的にお受けしております。個別の事情を踏まえた「あなたのケースでの適正金額のシミュレーション」から、相手方との交渉、調停・審判の代理まで、離婚問題に強い弁護士が強力にサポートします。

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